Posts Tagged ‘直江兼続’

兼続の両義性が「天地人」の見所~謙信と信長の狭間~

Sunday, February 1st, 2009

NHK大河ドラマ「天地人」は、上杉家という大きな組織を、部下として、衰退させながらも上手く軟着陸させた直江兼続という男の物語である。

100年に一度といわれる経済危機の時代。
世界のトヨタやソニーといった大企業も、安穏としていれらない時代。
大きな発展を夢見るのではなく、いかに組織を維持し、あるいは、いかに上手に衰退させていくかというのが課題の時代。

今年の「天地人」は、そんな現代に相応しい物語になりそうである。

さて、本日放送の「信長は鬼か」は天正4年の頃の話までであった。
謙信が亡くなるのは翌年の天正5年なので、おそらく、今回~次回、次々回の放送の時期までの頃が上杉家が最も勢いがあった時代の回ということになるだろう。
もっとも、その流れの中で、規模という見地からすれば、秀吉の家臣として越後、出羽などを収めて120万石を領有する時代が一番、興隆した時代ということは言えるのだが、それはあくまでも天下を諦め、野望を捨てた存在であり、勢いという意味では無くなってしまうのだ。
上杉家の勢いという意味では、謙信存命中がやはり一番なのである。
ちなみに、年表的には今後、謙信の死、上杉家の内紛、五大老時代、関が原、米沢転封 となっていく。

おそらく、「天地人」のポイントは、戦乱から統一を向かえる歴史、組織の流れの中で、直江兼続が、(いわばサラリーマンとして)いかに働いたかというのがテーマになっていくに違いない。それはまさしく現代的なテーマなのである。

実は、似たような事は、前作「天障院・篤姫」にも言えたのを覚えておられるだろうか。
こちらは幕末に滅び行く江戸幕府・大奥という古い組織をトップとして静かに終わらせた一人の女性の物語であった。

「篤姫」と「兼続」は、トップと部下、女と男、消滅と衰退という違いはあれ、見比べてみるというのも一興であろう。
そういった意味でも、篤姫のコンセプトが「和と絆」であったのに対して、兼続のコンセプトは「愛と義」というのは注目なのである。
2月1日放送の第5回「信長は鬼か」では、「義」という思想にたして、信長は「戦争の口実」と言い、謙信は「人が生きる美学」と言っていた。
信長は「義」を相対的に捉えているのに対して、謙信は「義」を信仰しているのである。
それは、信長は合理的であるのに対して、謙信は原理主義者であるという事をあらわしていた。

歴史の必然としては、多くの場合、原理主義者は美しい結末をむかえ、現実的には合理主義者が勝利する。

今回、信長と謙信の二人に合った兼続の心は、二つの「義」の間で揺れ動いたが、彼のそういった(文字通りの)両「義」性が最終的に、上杉家を、美しい死ではなく、しぶとい衰退に導いく事の伏線になっていくのだろう。

今後、その「義」に殉じながら合理的に生きる、兼続の両「義」的な生き方、そして心の揺らぎこそがこのドラマの見どころになっていくに違いない。

まさむね

亀甲紋 -北方を守護する玄武の力にあやかった紋-

Monday, January 12th, 2009

亀甲紋は、北方を守護する玄武(亀)を表象する紋である。

出雲神社、香取神宮の神紋として知られている。
おそらく、元々、出雲大社は大陸(半島)、香取神宮は蝦夷(東北地方)に対する守りという意味があったのであろう。

ただ、この形状自体が美しいデザインのため、企業のマークとしても使用されている。
例えば、醤油でお馴染みのキッコーマンのマーク。
昭和のはじめに創業者の茂木佐平次が、香取神宮の氏子だったことから亀甲紋をマークに、採用したとのことである。

また、商標、後には会社名としても採用した。

また、ビデオレンタルのゲオ。
こちらのマーク、隅立ての3つの正方形のように見えるが、実は、創業者の遠藤結城氏の家紋であった三つ盛り亀甲のイメージをそのマークに込めたとのことである。

全国では20位。特に多い地域は、秋田県(15位)、徳島県(16位)、北海道(17位)、青森県(17位)、愛知県(17位)、佐賀県(17位)、山形県(18位)、島根県(18位)、香川県(18位)、千葉県(19位)といったところか。

さて、この紋を持つ有名人は以下の通り。

浅井長政。1545年 – 1573年9月26日、武将で、北近江の戦国大名。
浅井久政の嫡男として六角氏の居城・南近江観音寺城下で生まれる。
浅井氏を北近江の戦国大名として成長させる。妹のお市を正室に迎え、織田信長と同盟を結ぶなどして浅井氏の全盛期を築いたが、のちに信長と決裂して織田軍との戦い(姉川の合戦)敗れるなど追い詰められ自害し、浅井氏は滅亡した。家紋は三盛亀甲花菱。


直江兼続。戦国時代から江戸時代前期にかけての武将。大河ドラマの「天地人」の主人公。
直江兼続という人物は、戦国から安土桃山時代にかけて、上杉家の生き残りを賭けた戦いと外交に尽力した傑物。
ただ、その三つ盛り亀甲の中の文様は、細い葉だったという説と、剣花菱だったという説がある。
2009年節分の成田山での豆まきの際、兼続役の妻夫木聡も三つ盛り亀甲の紋付だった。


竹本義太夫。1651年 – 1714年10月18日、浄瑠璃太夫。
摂津国(大坂)に生まれる。農家の出身。
大坂道頓堀に竹本座を開設し、近松門左衛門・作の『世継曽我』を上演。
近松門左衛門と組み、多くの人形浄瑠璃を手掛けた。
浄瑠璃の義太夫節の創始者である。家紋は竹亀甲に九枚笹。


宮武外骨。1867年2月22日 – 1955年7月28日、ジャーナリスト、新聞史研究家。
讃岐国阿野郡小野村(香川県綾歌郡綾川町小野)に庄屋宮武家の四男として生まれた。
反骨精神に富み、自ら新聞、雑誌を刊行して政治や権力批判を行ったためたびたび発禁、差し止め処分を受けた。『滑稽新聞』が特に有名。
画像は染井霊園の墓所にて撮影。


馬場孤蝶。1869年12月10日 – 1940年6月22日、作家、英文学者、評論家、翻訳家。
高知市出身。本名は勝弥。島崎藤村や北村透谷、上田敏らと雑誌「文学界」を創刊。
本邦初訳のトルストイ『戦争と平和』を刊行。
作品は『片羽のおしどり』 『明治の東京』 『社会的近代文芸』 等。
家紋は、違い一重反り亀甲。


有吉佐和子。1931年1月20日 – 1984年8月30日、小説家。
曽祖父は、長州藩士の有吉熊次郎。カトリック教徒で、洗礼名はマリア=マグダレナ。1956年に『地唄』が文學界新人賞候補、ついで芥川賞候補となり一躍文壇デビューを果たした。
代表作は『紀ノ川』、『華岡青洲の妻』、『和宮様御留』など。
家紋は亀甲に並び矢。画像は小平霊園の墓所にて撮影。


夏目雅子。1957年12月17日 – 1985年9月11日、女優。
六本木の輸入雑貨商・亀甲屋の子として生まれる。旧姓は小幡。写真はその実家の紋。
代表出演作はドラマ『西遊記』『徳川家康』、映画『瀬戸内少年野球団』など。
夫は、『ギンギラギンにさりげなく』の作詞で有名な伊集院静。27歳の若さで突然の死去。
「美人薄命」そのものの生涯と当時多くのファンからその死を惜しまれた。


手塚治虫。1928年11月3日-1989年2月9日、日本を代表する漫画家。
大阪府に出生、5歳から兵庫県宝塚市に育つ。
代表作は、『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『リボンの騎士』『ブッダ』『マグマ大使』『どろろ』『ブラック・ジャック』等、多数。
ストーリー漫画の父と言われている。

まさむね



「天地人」はどういう価値観を示してくれるのか楽しみだ

Saturday, January 3rd, 2009

元旦は、NHKスペシャル「激論2009」を興味深く見せてもらった。

番組のポイントは、現在の不況の原因を作ったといわれている構造改革の政策責任者の一人の竹中平蔵元総務大臣を金子勝、山口二郎、斎藤貴男の3氏がどれだけ、攻め込めるかだった。
ご存知の通り、竹中氏は、郵政民営化を初めとする新自由主義に基づいた(民営化、規制緩和、地方分権、財政再建など)政策を立案、実行したことで知られているが、その竹中氏に対して、今日の惨状の責任を認めさせるというのが、この3人に課せられたテーマだった。
多くの視聴者もそう思ってみていたはずだ。

しかし、結果としては、竹中氏は逃げ切った。
竹中氏に「第一の課題は貧困をなくすことだ」とか「大事なのは犯人探しをする事ではなくて、一つ一つ具体的に問題を解決することだ」と、正論を言い切られて、ほとんど有効な反論ができなくなってしまった。
さらに、実際の政策実行過程で具体的に官僚の執拗な抵抗があるという経験談に対して、この3人は黙って聞くしかない。
終いには、リアリストたれと一喝されることによって、事実上、論家あるいは研究者としての気楽さをも指摘され、いわゆる格の違いを見せ付けられてしまった。

それでも、例えば、今日の派遣切りなどの惨状と竹中氏の政策の失敗が明確にひも付けられれば、細かい点で、もっと攻め込めたかとも思うのだが、社会情勢の変化等も絡めて説明されると、それも難しかった。
具体的には、2003年に法制化された労働者派遣法の改正(製造業務への労働者派遣の解禁)の問題点が指摘されたが、それは別に小泉・竹中構造改革からだけの問題ではなく、80年代から徐々に解禁されてきた経緯がある。
労働者派遣法は、2003年の前に、既に1985年、1996年、1999年と徐々に派遣出来る業務が広がってきたのである。
また、同様に、パートタイマー(フリーター)、契約社員等の非正規社員もこの30年あまりの間にどんどん増えてきたし、転職なども当たり前になってきた。
それらは、新しい働き方、あるいは新しい生き方を支援するための新制度として、むしろ肯定的に広がっていったのである。
   ◆
そして、これらの労働形態の多様化は、その背景として、「自分らしく生きろ」、「個性を生かせ」、「夢を持て」などという耳あたりのいいイデオロギーが後押ししてきたのではなかったか。
おそらく、現代日本人にとって、こういった価値は、それこそ骨の髄まで染み付いている。
例えば、昨年の大河ドラマ「篤姫」は、まさに「己の心のままに生きる」ことを肯定する価値観を背景に持っていたし、TBSの大ヒットドラマ「ROOKIES」は常に「夢にときめけ!明日にきらめけ」と語りかけていた。

それらのドラマが発する価値観があまりにも自然なため、僕たちはその起源すら忘れがちであるが、それらは決して古いものではない。
おそらく、戦後にいつの間にか浸透したものであると思う。

しかし、昨年から今年をまたいでさらに続くと思われる経済危機の中、これまで僕らを支配していた、悪く言えば浮かれた価値観は必然的に変わらざるを得なくなってくるのではないか。まず、足元の生活を維持する事こそが重要になってきてしまうからだ。
勿論、だからと言って、その前の価値観=勤勉、忍耐、協調という古い価値観を持ち出すこともナンセンスだ。
それらは、日本型農業社会、そして、右肩上がりの工業生産重視の時代、あるいは終身雇用が当たり前の時代にまでしか通用しない価値観だからである。

これからは、普通の人が、普通に真面目に働いてもその先に成功するとは限らない時代が待っていると思う。
逆に、今まで以上に、一人一人が、付加価値を付けていかなければ生き残っていけない時代になる。その意味で、上記討論番組において、勝間和代氏が、これからは教育が大事だ、しかもそれは、子供に対してだけではなく、個々人が自らに対してもそうだという趣旨の話をしていたが、まさしくその通りなのである。
しかし、一方で、だからこそ、これからはイザという時のために、普段から、絆(今上天皇によって、天皇誕生日のご感想だけではなく、年頭のお言葉でも繰り返された言葉であるが)=人間関係というセイフティネットを大事にし、さらに、国に頼る以前に、自分達で作っていかなければならない時代になると思う。
そういう意味で、今後、学校の役割は、自分が落ちそうになった時の精神的、人間関係的なセイフティネットの基礎となる絆を作る場としての意味も大きくなっていくようにも思える。教育に金をかけるのは確かに大事だが、学校というところが、大人になるためのプラグマチックな訓練場として以上に、学校を卒業して大人になった時に、僕たちを癒してくれる「故郷」として必要になってくると思うのは、いささかノスタルジックに過ぎるだろうか。
    ◆
さて、今年の大河ドラマ「天地人」では上杉家家臣の直江兼続が主役であるが、彼は、「愛」と「義」に生きた武将として知られている。
「愛」と「義」というコンセプトは、自分自身の生き方というよりも、周囲に対しての接し方のコンセプトなのだと思うが、それがこの時代に必要な「絆」構築のための思想になれるかどうか。その思想が時代とシンクロしていけるかどうか。
そういう視点でこのドラマを見て行きたいと思う。

まさむね