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王貞治 残酷な現実との戦い

Thursday, September 25th, 2008

だいぶ、昔の話。僕が小学生の頃だったと思う。

スタジオで王さんと長島さんが大勢の子供達からの質問を受けるというテレビ番組があった。
司会が子供達に質問する。

「長島さんが好きな人、手を上げて下さい。」
子供達「はーい」
複数の子供が手を上げる。

司会が一人の子供を指名して「どうして長島さんが好きなんですか?」
ある子供「王さんは台湾人だから嫌いです。」

子供達は笑った。王さんは、無表情だった。

この残酷なシーンは何故か僕の心の中に残っている。

そして時が流れる。

先日、8年連続200安打という記録を達成したイチローに、王さんは祝福の電話をかけて、その偉業を祝福したという。その時の会話に関してイチローが以下のように述べている。

「アメリカという国は差別的、という言葉を王監督は使われなかったですけど、そういうニュアンス――まあ、白人至上主義というか、そういうのが残っていて、要は『その中で、日本人が誰もやったことのないことを打ち立てることというのは、想像以上に難しいことだ』って言ってもらったんですよ。そのとき、僕は本当に泣
きそうになって、『この人、すげえ』と思って感動してね。
普通、そこまでは想像できないんじゃないですか。テレビとか、メディアからの情報だけでは。本当に(メジャーの)中でやらないと、そういうことって分からない。すごいですよ。やっぱ、この人のためにやりたいって思うよね。まあ、宝物ですね。王監督と同じ空間で、時間を過ごさせてもらったことは」(スポーツナビ 大本
大志より)

イチローのこの言葉の後で、王さんの事を今再び、心の中で思い出してみる。
なんとも言えないジワーとした感情が沸きあがってくる。

まさむね

王監督の普通の言葉には説得力がある

Thursday, September 25th, 2008

その会見で、今シーズンのソフトバンクの不調を分析して王監督らしい発言があった。

「まぁ、今考えますと、”監督生命を賭けて”という形といいますか、昨年のシーズン終了後に、選手達に向かって、そういう発言をしたことがかえって選手達に変なプレッシャーを与えてしまったんではないかと。
ウチの選手は大変素晴らしい選手が多いですから、普通に闘っていけば絶対に、優勝は勿論の事、クライマックスシリーズには当然出れる戦いが出来る戦力でありました。..(中略)..これが私の、監督14年間の中で一番の反省点と考えております。」

王監督はここで、”監督生命を賭けて”というような過重な”思想”が敗因だったと語っている。
逆に言えば、ここで王監督は、「優秀な選手達が、”普通に”戦うという事が最も勝利に近い」という定石を普通に維持していくことの難しさを語っているのだ。

人は苦しくなると思わず思想や美学や宗教等の言葉に身をゆだねてしまいがちになる。
しかし、それは、逆に勝利への道を遠ざけてしまうのだ、時として無用のプレッシャーにしかならないのだ。

さらに、記者からの、辞任の決意はいつだったのかとの質問に答えて、淡々と述べる。

「いつというよりも、この9月に入ってからの不思議な戦いの連続ですよね。
まぁここで6対2で勝ってて、抑えのエースの馬原投手を出して、橋本君にホームランを打たれて同点になって最終的には負けたとかですね。まぁ考えられないような戦いが再三出てきてしまいまして...」

あっさりと部下の名前を出して、説明する王監督。
その冷静で普通の言葉は、あの星野監督が北京五輪の後で披露した、(ワシは個人攻撃などしない。あくまで選手を守るぞ的な)己の美学、(一度や二度失敗してもワシはその選手を使い続けるぞ的な)野球論、(挑戦こそワシの人生だ的な)精神論の暑苦しさとは対極にある。
その言葉には、スッキリとした説得力があった。

王監督の辞任をもって、ニッポンの古き良き、職人気質の伝統の一つが、静かに幕を下ろした。

まさむね