REVOLVER TOCP-51117 ●1966年4月~6月に録音された。 |
ビートルズが1曲、1曲毎に珠玉のアイディアを出しまくって作ったアルバム。 さて、このアルバムが発売されたとき、「リボルバー」という名前の前に候補に上がっていた名前は「アブダ・カダブラ」っていうらしいんだけど、この魔法の呪文こそ、ビートルズマジックが炸裂したこのアルバムにふさわしかったのかも。ただ、「リボルバー」(Revolver)というのは回転式拳銃のことだが、単語を分解してみると、re-evolve-er(再び-進化する-人)という意味になる。初期のアイドルビートルズから、徐々にアコスティックサウンドに傾斜し、そしてさらなる進化を示したのがこのアルバムという自負の表れか。 しかし、このビートルズマジックが完璧な世界を構築したかといえばどうだろうか。僕はそうは思えない。それぞれの曲には、ザラザラとした感触が、また、曲順にも不完全感が残っている。 現代、このアルバムがまだ輝き続けているとすれば、そのアルバムに潜む好奇心、意欲、自信、遊び心、そしてこの不完全性=可能性があるからに違いない。 |
Taxman ★★★★☆ ◆(George) V=George 収録日=1966/4/21,22,5/16 ●1991年の東京公演で演奏した。 ●ビートルズ初の社会派ソングといわれたが、それほどの奥深さはあるか? ●タンバリンの入り方がなんとも不思議。この中途半端さは、ジョンとポールによって実験場とされてしまったジョージの曲の一例か。 (他には「嘘つき女」のファズベース、「I Want To Tell You」のフェードイン等) この「リボルバー」にはジョージの曲は3曲も収録されている。いわゆるジョージ率がかなり高いアルバムだ。ビートルズには、ジャケットでは、そのアルバムで最も光っているメンバーの目線がこちらを向いているという法則があるが、このリボルバーでは、このジョージがまっすぐこちらを向いている(イラストではあるけど)。ちなみに、ジョン一人がこっちを向いているのが「ラバーソウル」、ポール一人がこっちを向いているが「レットイットビー」である。 楽曲的に言えば、ポールの弾くベースとディストーションのかかったリードギターがかっこいい。なんだ、かっこいいのはポールだったか。ジョージの曲なのに。 でも、曲もロックンロールとして普通に素晴らしい。後、この曲でカッコいいのは、曲の始まり。間近で聞こえるジョージのカウント、それをさえぎって、遠方で誰かの声。曲はその遠方の「フォー」というカウントに従って始まる。ノッケから意表をつく。さすがビートルズだ。 歌詞的に言えば、税金が高い~っていってるだけかと思ったら、やっぱりジョンが入れ知恵したパートは一味違うね。 Now my advice for those who die (Taxman) ポールのベースのテク凄い。ギターも最高。 |
Eleanor Rigby ★★★★★ ◆(Lennon=Maccartney) V=Paul 収録日=1966/4/28,29,6/6 ●ポールひとりで歌。バックは管弦楽のみ。 ●「Father McKenzie」 は空耳として「はざまけんじ~♪」と聞こえる。 ●グラミー賞の最優秀ソロボーカルパフォーマンス賞を受賞。 エリナリグビーという孤独なおばあさんとマッケンジーという孤独な神父の話。 Father McKenzie writing the words of a sermon that no one will hear 最初このMcKenzieをジョンは、McCartneyにしようとしたという。当時、段々、グループの中でも横暴になりかけていたというポールに対する最大なあてつけですな。でも、ポールはそれを避け、電話帳から、このMcKenzieという名前をさがしてつけたという。ちなみに僕が15年位前にカナダに住んでいた時、家の近くにMcKenzie street っていう淋しい通りがあったな。 楽曲的には僕が好きな曲の1曲だ。1984年の主演映画「Give My Regards To Broad Street」の中でギターで引き語っていたポールはかっこよかったな。 でも、僕の印象だと、この曲はビートルズの曲の中でも孤高の位置にあると思う。他にこの曲に近いのがないんだよな。暗いリアリズムに基づいた詩の世界観、性急な感じのメロディ、とそれを引き立てる弦楽器のみのアレンジ、どれをとっても、あんまり類似曲がないでしょ。 どうしてこの時期、どういうモティーフでこんな深遠な曲を作ったんだろう、そしてどういう意図でイエローサブマリンのB面に置いたんだろう。さらに、ポールとジョン、どちらが主導で作ったのかという基本的なところでも論争があるんだよね。 それにしても不思議だ。 僕は、 ビートルズの曲の基本はファンタジーだと思っている。それは、いわゆるダーティリアリズムとは別世界だ。例えば、ビリージョエルの「ピアノマン」とかブルーススプリングスティーンの「ボーン イン ザ U.S.A」の歌詞の世界にあるような、普通の市井の庶民の生活を淡々と描くような世界とは違う。しかし、ビートルズの曲の中で、このEleanor Rigbyだけが、ダーティリアリズムの世界の曲なのだ。 この曲だけ、ファンタジーではなく、ファンタジーを持つ人々を客観的に眺めるという視線からの曲なのである。僕がこの曲を不思議だと思うのは、そういったことにも原因がある。 とてつもない名曲。 言葉になりません。 |
I’m Only Sleeping ★★★☆☆ ◆(Lennon=Maccartney) V=John 収録日=1966/4/27,29,5/5,6 ●ギターソロはテープの逆回転。 あくせく働く現代人に対する社会風刺っていうのが一般的な言い方になるんだろうけど、これもマリファナソングだろうな。 Please, don’t spoil my day, I’m miles away このI’m miles awayを、どう解釈するかだと思うよ。夢の国って解釈するか、幻覚の世界って解釈するか、それはこの曲を聞いたリスナーが判断すればいい話だよね。 僕は、ジョンがこの曲で試そうとしたのは、とにかく、自分の「眠い、休みたい」っていう感覚を音楽で表現してみようってことだったんじゃないかと思う。テープの回転数を変えたり、逆回転音をギターソロに使ったり、それはあくまで、表現手法の話。ジョンの試みが成功したと捉えるか、失敗したと捉えるか、この曲の評価はそれにかかっていると思う。 「眠い」っていう状況を音楽にしたらこうなった? |
Love You To ★★★☆☆ ◆(George) V=George 収録日=1966/4/11,13 ●ポールとジョンは不参加。リンゴはタンバリンで参加。 ●シタールはジョージが弾いている(という)。 ジョージは自分の歌の題名をつける時かなり、いいかげんだったという。レノン=マッカートニーの曲はタイトルが歌詞の中にそのまま出てくるケースが多いんだけど、曲数が少ないジョージは、それにしてはそうじゃないパターンが多い。ざっと上げてみると、Love you to、For your blue、The inner light、Within you without you(実際の歌詞はyouとwithoutの間にandが入る)。だからなんだって話なんだけどね。それにしてもLove you toっていうのは、どうなんだろう。歌詞の中ではLove to youでしょ。to と youをなんで入れ替えたんだろう。謎だ。 A lifetime is so short なんて享楽的な歌詞なんだ。1日中歌いながら愛するってまるで馬鹿ではないか。あくせく働くのを止めること、組織の歯車にならないで自由に生きること、今、読むとなんだかなぁという感じもするけど、時代っていう考え合わせると意義深く感じられる。 時代を先取りするのがビートルズ。この曲の、「1日中愛し合おう、歌いながら愛し合おう」っていう生き方は、次の年のサマー・オブ・ラブの思想を先取りしているよね。 この時代の雰囲気を上手く捕らえている。 |
Here,There And Everywhere ★★★★☆ ◆(Lennon=Maccartney) V=Paul 収録日=1966/6/16,17 ●ジョンもポールも一番気に入っているビートルズソング。 ジョン曰く「ポールがひとりで作った曲だと思う。ビートルズの中で僕が一番好きな曲のひとつだ。」 おそらく、Yesterdayは、その曲の作られ方(朝、起きたら出来ていた)からして、ポールにとって、本当に自分の曲っていう所有意識は薄かったんじゃないかな。それに対して、この曲は本当に上手く出来たっていう実感があったんじゃないかと思われる。 ジョンもこの曲は好きだったみたいだ。彼は偉大なアーティストだ恐らく嘘をつくことはしない。その証拠に、ジョンの代表作「Woman」の歌いだしの部分は、「Here, There And Everywhere」と似ている。 そういえば、ポールがどっかで回想していたな。二人っきりになったときに、ジョンは「実は俺はお前の作る曲の方が好きなんだ。」ってひっそりと打ち明けたというのだ。その時、ポールは本当に嬉しかったという。 いい話だ。 Yesterday等とならぶメロディアス・ポールの神曲。 |
Yellow Submarine ★★☆☆☆ ◆(Lennon=Maccartney) V=Ringo 収録日=1966/5/26,6/1 ●リンゴがボーカルをとったはじめてのナンバーワンソング。 ●ただの童謡なのに、ピル(避妊薬)を歌った歌だと邪推された。 ●同曲は、アルバム「Yellow Submarine」にも収録されている。 ここまで書いてきて、このリボルバーは本当に1曲づつが全部、違った方向を向いていることに驚く。ロック、クラシック、ブルース、インド音楽、バラードときて童謡だからね。 中学校の頃のこの曲をカセットで聞いていたら、村田英雄や三橋美智也を好きだったうちのおばあちゃんが「ヤオサオ」ってなんだって聞いてきた。おばあちゃんの耳にはYellow submarineが「ヤオサオ」と聞こえていたのだろうな。 リンゴが歌うと全部、ほのぼのとするよね。これも凄い個性。 |
She Said She Said ★★★☆☆ ◆(Lennon=Maccartney) V=John 収録日=1966/6/21 ●LSDでトリップしていた時にピータフォンダに「死ぬってことはどういうことか知ってるよ」って話し掛けられて不快だった時のことを歌にしたという。 この曲は、凄くかっこ良くて好きっていう人と、聞けたもんじゃないっていう人が二分される曲。ジョンのこの頃以降の曲はそんな曲がどんどん増えていく。 でも、死ぬってどういうことか知っているよ、って言われたても、普通、生まれてきてないような気分にならないよね。それがLSD体験っていうことで「ふ~ん、そんなものなのかなぁ」と思ったりした。 あと、ピータフォンダで男優でしょ。なんでShe saidになってるんだろう。同様のことは、マハリシを非難するのになんでSADIEって女になっるんだろう。初期の頃には、女性に対する暴力ソング(You can’t do that、僕が泣く、浮気娘等)もあったし。どうしたんだいジョン。つらい女性との過去があるんだろうな、って想像しちゃう。 ジョンの攻撃性溢れたドラッグソング。この曲調、根強いファン多し。 |
Good Day Sunshine ★★★☆☆ ◆(Lennon=Maccartney) V=Paul 収録日=1966/6/8,9 ●間奏のピアノはマーティン。この部分はフォーククルセダーズの「帰ってきたヨッパライ」でも引用された。 I need to laugh and when the sun is out I’ve got something I can laugh about I feel good in a special way I’m in love and it’s a sunny day 声を上げて笑いたい 太陽が照ってると ひとりでに笑えてきちゃうんだ なんだかとっても心がはずむ 恋をしているのさ それに今日はいい天気 このひとりでに笑えてきちゃうっていうのはマリファナのことでしょ。GooddaySunshineっていうの自体がマリファナの隠語だしね。 NASAでは毎朝この曲がかかって隊員を起こすって聞いたことあるけど、「そういった」意味も踏まえてるんだろうか? エンディングのアレンジでまたまた見せたポールの天才。 |
And Your Bird Can Sing ★★★★★ ◆(Lennon=Maccartney) V=John 収録日=1966/4/26 ●ジョンとジョージのツインリードギター。 ●この曲の歌詞はよく難解だと言われる。ジョン自身はいいかげんに作った曲、ひどい曲とコメントしている。 ひとつの解釈の一つに、Bird=Beatles、You=Beatlesのファンというのがある。 You tell me that you’ve heard every sound there is 確かに、この部分はコンサートをやってもちっとも演奏を聞いてくれず、騒ぐだけの観客に向かってのメッセージと取れないことも無い。 別の解釈としてBird=Beatles、You=ブライアンエプスタインというのもある。それはビートルズが稼いだ富の多くを取っていくブライアンに対する皮肉ととることが出来るのだ。 You say you’ve seen seven wonders and your bird is green 緑色っていうのは嫉妬してるってことだよね。(You can’t do that でeverybody’s greenって歌詞があるけど、みんな羨ましがってっていう意味)小鳥が緑色ってことは、Beatlesの面々はブライアンが金をあまりに持っていくんで内心嫉妬しているって意味さ。You can’t see meっていうのは、そんな僕ら(=Beatles)のことをわかっちゃいないねっていう意味さ。貴重な宝物の数々が重荷になってきたらってのも皮肉だよね。 まぁ、どっちが正しいかなんて野暮だよ。ジョン得意のダブルミーニングだってことにしよう。 ジョンがいくら嫌っていても僕はこの曲、大好きさ。 |
For No One ★★★★★ ◆(Lennon=Maccartney) V=Paul 収録日=1966/5/9,16,19 ●フレンチホルン、クラビコードというめずらしい楽器が使われている。 ●ジョンとジョージは不参加。 この曲もポールの私的な体験をもとに作られた曲だ。女が男を必要としなくなり、去っていく。男はそれでもまだ、女が男を必要としているはずだと信じている。そんなすれ違いを淡々と描いている。この客観的でかつ残酷な視線がポールにあって、ジョンにはちょっと不足している要素だと思う。 You want her, you need her ポールの才能はとどまる事を知らず。特に曲の始まり方はやはり天才技。 |
Doctor Robert ★★☆☆☆ ◆(Lennon=Maccartney) V=John 収録日=1966/4/17,19 ●LSDをビタミン剤にまぜて患者に注射していたというニューヨークの医者(チャールズ・ロバーツ)を歌った。 リボルバーがサイケデリックと言われるのは、中の多くの曲が麻薬と関係しているからなんだろうな。曲だけを漠然と聴けばそんなに麻薬は感じないんだけど、歌詞とかエピソードを聴くと結構、当時ビートルズが麻薬に深くかかわっていたことがわかるよね。それはいい悪いの問題じゃなくて、そういう時代だったというしかないでしょ。今になっては。 キレのあるロック。でもちょっと地味かな? |
I Want To Tell You ★★★☆☆ ◆(George) V=George 収録日=1966/6/2,3 ●ジョージが1991年の日本公演でオープニングに演奏した。 ●エンディングでは、ポールとジョージの、演歌でいうところの“こぶし”が聴かれる。 ジョージのシャイな歌詞が可愛い。 I want to tell you My head is filled with things to say 「Do you want to know a secret」とか、「I’m Happy Just To Dance With You」とかのジョージのシャイな男路線の上にある。僕はSecretやDanceは他のメンバーが無理やりジョージに押し付けたイメージではないのかとの邪推を持っていいたんだが、自分自身でこういった曲をつくると僕の仮説が崩れるじゃないか。ジョージよ。 来日公演のオープニングにこの曲の前奏が流れたときの興奮といったら...そう来たかジョージ!! |
Got To Get You Into My Life ★★★★☆ ◆(Lennon=Maccartney) V=Paul 収録日=1966/4/8,11,5/18,6/17 ●元祖「ブラスロック」とされている。 ●1976年にアメリカでシングルとして発売。ゴールドディスクを獲得している。 Ooh, then I suddenly see you Ooh, did I tell you I need you Every single day of my life すると突然君に出会った 君が必要だってちゃんと伝えたっけ? 毎日ずっとそばにいてほしいんだ この曲に関してポールは「この曲の相手は人間じゃなくて、マリファナなんだ。『こりゃあ悪くないじゃないか。マリファナをやることにするぞ』と宣言する、マリファナに捧げる合唱曲さ。」って語っている。まったく、毎日ずっとそばにいて欲しいなんて言うから、捕まるんだよ、ポール。 ポールの自信溢れる名曲。絶好調だ。 |
Tomorrow Never Knows ★★★★☆ ◆(Lennon=Maccartney) V=John 収録日=1966/4/6,7,22 ●実験的なサウンドコラージュで有名。 ●ティモシーリアリーの「ザ・サイケデリック・エクスペリエンス」の中から詞を引用している。 ●タイトルは、いわゆるリンゴ語(リンゴがたまに発する文法メチャクチャなフレーズ)からとった。 ●ミスチルが同名曲を発表しているがなんの影響も感じられない曲。 ●ジョンの歌声はひしゃげた感じになっているがジョンがマーティンに「ダライ・ラマが山の上で歌っているような感じにしたい」と注文したとか。 ●カモメの鳴き声のような音はポールがギターの逆回転で作り出したとか。 上記のように何かと耳タコエピソードが多い曲だ。確かに実験としてはかなり面白いが、恐らく発売当時から今まで、そんなに人気があるナンバーではない。なんとなく、「これを認めろ~」っていう空気が鬱陶しいからか? Revolution9位になるとファンに聞かせたいのかどうかも疑問に感じられて、そこが逆にすがすがしいのだが、この頃の曲は、どこかにまだアイドルグループの尻尾を引きずっている感じがする。 歌詞はティモシーリアリーの「ザ・サイケデリック・エクスペリエンス」からの引用といわれているが、中に、ジョンっぽいフレーズが入り込んでいた。 Love is all and love is everyone The word、Tomorrow never knows、All you need is love これはビートルズ中期、愛の三部作だ。 ところで、この曲での自分の声を「ダライ・ラマが山の上で歌っているような声」にしたいとマーチンに要望したジョン。もしも、生きていたら、2008年のチベット民衆蜂起に対して、どんな行動をとり、どんなメッセージを出していたんだろうか。自分が、どうすべきか迷った時、「もしも、ジョンだったら?」って考えるのも一つのヒントかもしれないね。 混沌と実験とポップスの見事な融合。 |