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「私は貝になりたい」は何故失敗したのか

Wednesday, December 10th, 2008

今年も残り1ヶ月を切った。
自宅療養中の身の為、映画鑑賞もほとんど出来なかった。
観た映画は「恋空」と「アフタースクール」のみという寂しさである。

一方、テレビはよく観た。そこで感じたのが、最近、以前にも増して、テレビ局がらみの映画の企画・タイアップ番組が目立つという事。
特に、印象の残っているのは、直近ということもあるが「私は貝になりたい」(以下、「私貝」と略す)だ。
本作品の内容に関しては、観ていないので何ともいえないが、以前、フランキー堺版(1959年)をビデオで観た記憶があって、その時は、切なくていい映画だったとの印象は残っている。

さて、今年のリメイク版であるが、主演は、中居クン。(ちなみにここで小疑問。この中居正広っていったい何歳までクン付けで呼ばれるのだろうか?)
加えて、仲間由紀恵、笑福亭鶴瓶、泉ピン子、石坂浩二等の豪華キャスト、音楽も久石譲に主題歌はミスチルと大物揃いである。

しかも、SMAPリーダーの中居クンが全国28箇所の地方局行脚という異例の力の入れよう。(皮肉なことに、意外とスケジュール空いてるんだ。というネガティブ印象を与えてしまう。)さらに、制作のTBSの番組だけではなく、「笑っていいとも!」、「とんねるずのみなさんのおかげでした」という他局でのタイアップ。
極めつけは、NHKの紅白の司会も中居&仲間になるという磐石のパブリシティ活動。
「なりふり構わず」といった印象のみが伝わってきたが、それにしても、テレビという圧倒的な宣伝媒体を使って、連日の垂れ流され続けるパブ行為にはさすがにうんざりさせられた。

確かに、テレビ業界の経営がスポットが入らなくて苦しいということ、不動産事業、ソフト事業に依存せざるを得ないという事情は聞いている。
しかし、こんな、電波の私物化状態を続けていけば、さらに視聴者が離れ、苦しい状況になってくるに違いない。

さらに、肝心の映画の方であるが、素人の僕が、PV、あるいはCMを見た限りでもこれはヤバイと思わせるものがあった。(確認しておくが、これはビジネスとしての話をしているのであって、芸術性とか思想性の話をしているのではない。)

だいたい、今の時代、終戦直後を題材とした映画を見せられてトキめく、つまり見たいと思わせることなどありえないのではないか。
さらに、この企画の出生自体があまりにも唐突な印象なのだ。何故、今、「私貝」のリメイクなのという必然性が全く感じられない。
東京裁判批判ということで田母神発言と連動てる?ってそれは無いよね。
そして、一番大事なこと。中居クンの魅力がまるで出ていないようなのだ。正直言って、中居クンの坊主頭が、僕には、桂歌丸師匠に見えたくらいだ。

結果は案の定、以下の通りだった。
(映画興行に関する情報サイト EIGA.COM 参考の数字だが、今年の東宝邦画系の主な作品の初動の興行収益を以下に記してみる。尚、集計は封切りの土日の合計。月曜日も祭日などで休みの場合、3日で集計されるから、それを2/3にして平等に出す。)

崖の上のポニョ     10億5千万円(日テレ)
花より男子ファイナル  10億0千万円(TBS)
ポケットモンスター    6億7千万円(テレ東)
20世紀少年       6億2千万円(日テレ)
容疑者Xの献身     5億4千万円(フジ)
ドラえもん         5億1千万円(テレ朝)
ザ・マジックアワー    5億0千万円(フジ)
チーム・バチスタの栄光 3億8千万円(TBS)
私は貝になりたい    2億7千万円(TBS)
クレヨンしんちゃん    2億5千万円(テレ朝)
ハッピーフライト     2億1千万円(フジ)

ポニョ、花男は別格だが、とりあえず5億超えた勝ち組とそれ以下の負け組の差が明確なのがおもしろい。
さらに、その負け組のさらに厳しい位置に「私貝」があるのが目に付く。

ただ、ここで一応、ことわっておかなくてはならないのは、「私貝」(と「ザ・マジックアワー」)日劇3系(昔の日劇プラザ系)の映画館にかかってるということだ。この系列は、厳密に言えば、邦画系ではない。いわゆる邦画系といわれる日劇2系は、スケジュールが早く決まってしまうため、企画的に難しいと判断されたり、制作が遅れる可能性が強くて、ここに入れない邦画は、日劇3系、スカラ座系、みゆき座系に回る。昔は、映画の格という事にこだわる文化が映画業界にあったため、この日劇2系と日劇3系、あるいはそれ以外とでは、大きな差があるようなイメージもあったが、今は、シネコンなどが地方に増えたり、入れ替えとかの柔軟性も増しているので、価値、動員数は、系列では判断しにくくなってきている。ちなみに、ポニョはスカラ座系、ここに挙げたその他の作品は日劇2系である。

また、SMAP最新作初動比較で言えば、草なぎ剛の「山のあなた」の5000万円には勝ったものの(この作品自体、興行成績を狙うタイプの作品ではなかった)、昨年の木村拓哉の「HERO」の10億9千万円、香取慎吾の「西遊記」5億2千万円には大きく差をつけられている。

映画業界というところは、表立ってはヒットしなかった作品を「ヒットしてない」とは言わないという古い体質がある。ただ、話題にしなくなるだけだ。そして、ヒットした場合にのみ、騒ぐのだ。封切後に全く話題に上らなくなった映画はヒットしていないと思って間違いない。そして、おそらく、現時点で言えば、「私貝」の担当者は、自分自身、貝になりたいと思っているのではないか。

最近、テレビ局の媒体としての力の衰えと同時に、新しいものを生み出す企画力、プロデュース力が弱まっていると聞くが、こういう結果を見せられると、その現実を益々確信させられる。

ちなみに、ネットでの「私貝」オフィシャルHPでは、中居クンの写真は半モザイク状態か、後ろ向きか、あるいは極小扱い。いわゆるネット宣材写真としては、仲間由紀恵のものが使われている。また、wikiでは、「この項目は著作権侵害が指摘され、現在審議中です。」との状態である。

まさむね