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大河・篤姫が「その時歴史が動いた」篤姫と違う5つの点

Friday, December 26th, 2008

先日、NHK「その時歴史が動いた 大奥 華にも意地あり~江戸城無血開城 天璋院篤姫~」の再放送があった。

「その時歴史が動いた」は、忠実に史実を再現する事をポリシーとした番組である。
今まで、信じられてきた歴史に対して、新たな実証、資料を元にして、新史実を紹介するところが真骨頂だ。

そこで、僕が気になったのは、この番組で紹介された史実の篤姫は、大河ドラマ「篤姫」と、いくつかの点で異なっていたという事だ。しかも、そのいくつかの点は、むしろ篤姫の特徴を現していたエピソードのような気もするのである。

僕が気になった点を上げてみる。以下の5点だ。

1)和宮との初対面における敷物
和宮との初対面において、史実では、篤姫が和宮に敷物の無い場所を指定したのだが、大河では、篤姫は敷かなくていいのか?といぶかるが、大奥総取締り・滝山に「必要ない」と進言され、そのような状態になった、ということになっていた。

2)江戸城退去を言い渡させた時の篤姫の態度
朝廷から倒幕の勅命が出て、討幕軍が江戸に迫った時、篤姫は城内からの退去を勧められるが、これを拒絶し、史実では短刀を構えて自害の姿勢を見せたという。
そうとう気性の激しい女性だったようだ。勝海舟は、こんな篤姫を評して「天璋院は貞婦というか烈婦」と記しているほどだ。
しかし、大河では、この場面では篤姫は退去に納得。その際に、「とりあえず、3日間だけ退去してほしい」という滝山の嘘を見破り、逆に、そのような嘘を付かせた滝山の心をいたわっている。

3)江戸城総攻撃を思いとどまらせるために西郷に送った手紙
史実では、西郷が江戸総攻撃を思いとどまったのは、篤姫からの「自分の命にかけても、徳川家の存続を嘆願する」手紙によってということであるが、大河では、むしろ、斉彬から篤姫への手紙を読むところで、西郷は号泣。日本を西洋に負けないような国にしたいという斉彬の意志を継ぐ、すなわち日本のためを思って江戸総攻撃を止めたということになっていた。

4)江戸城退去後に大奥に残された物
篤姫が江戸城から退去するとき、史実では、調度品等を全部置いてくる事によって、薩長に対して、徳川文化の厚みを誇示しようとしたのに対して、大河では、高寿院(家定の母)が活花をして、それに感化された篤姫をはじめ、他の女中達、みんなが活花をし、それを部屋に残し、乗り込んできた薩長軍の兵士を驚かせるというエピソードになっていた。

5)大奥退去後の女中達への世話
大奥退去後、史実では篤姫は、女中達の縁談、再就職先の面倒のため奔走したとのこと。そのために、死後、残された所持金はたった3円=現在の貨幣価値で6万円程度になっていたということであるが、大河では、その件は、江戸城開城前に、滝山に一任されていたようだった。篤姫の面倒見のよさを示すエピソードのはずなのだが、大河では、「気にかけている」レベルの話になっていた。

おそらく、本当の篤姫は、1)、2)、3)でも分かるが、気性が激しい女性だった。
また、1)、4)のエピソードを聞くと、かなりプライドが高い面も持っていたことがうかがえる。
さらに、2)、3)、5)で分かる通り、責任感が強く、人情味にあつかったようだ。

大河における篤姫よりも、かなり性格の輪郭がはっきりしている。
ようするに、本当の篤姫は、大河・篤姫よりもキャラが立っていたのではないだろうか。しかし、そのキャラはかなり古風である。

おそらく、上記のような史実の篤姫の武勇伝の多くが避けられたのは、随所で現代的な価値観を見せる大河・篤姫とのキャラの整合性をとるための対応だったのであろう。
例えば、「生きる」という事を第一とする現代の価値観からすれば、短刀で自殺しようとしたり、あるいは、自分を犠牲にしても徳川家を守って欲しいなどと言うのは矛盾してしまう。
また、1)のように、見方によっては姑の嫁に対する意地悪に見えてしまう振る舞いは避けられた。

ただ、4)の場面では、自分が先導して活花をしたとか、5)の場面では自ら奔走したというシーンにしてもよかったと思うが、それぞれ、ヒステリック、あるいは冷たいイメージの高寿院と滝山に華を持たせる形となっている。
この点は、逆に、結果として、篤姫の懐の深さを見せたのではないだろうか。

一方で、大河・篤姫は、史実としては可能性が低い小松帯刀や徳川家定とのユニークな男女関係が前面に出ていたが、これが多くの視聴者を惹きつけたのである。

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まさむね